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刑事告訴の実例 千葉縫合不全事件(痔の手術、縫合不全)

 類型的に刑事告訴が困難な事案として、資金の流れの裏付けがない財産犯、目撃者のいない粗暴犯などがありますが、医療事故は、患者の取り違えのような極端な場合を除き、医療事故というだけで、困難な類型です。

私が代理人として刑事告訴を行った場合、紆余曲折しても大部分のケースは告訴受理されてきましたが、医療事故は、そもそも、私の検討段階で、刑事告訴は無理、と思われるケースが多く、他方、可能なケースは、依頼者が民事訴訟だけを要望されることが多く、刑事告訴を実際に行うところまで行ったケースは、3件(1精神病院で投薬を誤った事案、2痔の手術後に縫合不全が生じた事案(千葉縫合不全事件)、3腹腔へのカテーテル留置の際、神経を損傷した事案)しかありません。いずれも受理されていますが、相当準備して臨んでおり、よくここまで調べたと、捜査官に感嘆されました。

                                                このうち、千葉縫合不全事件を単純化して紹介します。

                                                                                                           1 痔の手術には様々な方法があり、自動吻合機(PPH)を用いて切除する方法もその一つであり、保険適用になっています。手縫いに比べて簡易であり、術者の技量にあまり左右されず、日帰りも可能である等のメリットがありますが、頻度は低いものの、縫合不全等の合併症は生じます。

2 本事案では、患者は60歳の女性であり、平成22年、全国各地にある有名医療法人の病院で痔の日帰り手術を受け、特に異常が確認されないまま、退院しました。しかし、患者は、帰宅途中から大腿部の痛みを感じ、帰宅後にますます強まり、自宅で寝込んでいました。手術の2日後の朝、同病院に電話して応答した看護師に指示を仰いだものの、痛みを訴えた部位が痔の手術部位とは異なる大腿部であったことから、様子を見るように言われ、我慢していましたが、同日夜、耐えかねて救急車を要請し、同病院に入院しました。 同病院では、やはり、痛みの部位が大腿部であったことから、痔の手術との関連性を想起せず、翌日午後(手術の3日後)、執刀医が念のため肛門を診察した際にようやく、縫合不全が判明したというものです。既に敗血症を発症しており、夜間に緊急手術を行いましたが、間に合わず、亡くなりました。

                                                         3 本件の大きな特徴として、患者のご遺族において、事故から間もない時期に千葉県警に相談して告訴を要望し、弁護士に依頼するよう助言されたものの、弁護士探しに膨大な時間を要したことです。 民事の相談に乗ってくれる弁護士はいても、刑事告訴を引き受けてくれる弁護士を見つけることができず、告訴の相談に乗ってくれた弁護士も、協力医探しのノウハウがないため、進展がないまま時間が経過し、ご遺族は、千葉から大阪の私の事務所に来られ、告訴を依頼されました。 私は、当時、泉南アスベスト訴訟等で多忙を極めていた上(今も多忙ですが)、現場が千葉県と足場が悪いことから、民事訴訟と刑事告訴の要領と、告訴を担当する弁護士が行うべき事項とその方法をご説明し、近場で弁護士を探し、私がお伝えした方法で進めて貰うよう、助言しました。 その後、ご遺族は、民事手続きと刑事告訴を東京方面の別々の弁護士に委任し、民事は進行したものの、刑事告訴を依頼した弁護士は、協力医を見つけはしたものの、刑事手続きに用いる意見書を書いて貰うことができず、膠着状態となりました。上記経過を経て、ご遺族は、約1年後、再び私に受任を要望されましたので、お引き受けしました。

                                                                                                                                 4 本件の最大の争点は、痔の手術で大腿部が痛むことの医学的機序の説明(下腹部を走行する神経の一部は、下肢を支配領域とするので、下肢が痛む)、関連して、検査・手術が遅れた過失の証明、痔の手術との関連性を想起して検査・手術を行うことが可能な時期及びその場合の救命可能性でした。自動吻合機によって縫合不全が生じた原因については、私が受任する前にある程度明らかになっていました。  私は、医学文献の調査を行うとともに、消化器外科と消化器内科の医師各1名に協力をお願いし、上記争点に関する患者側の主張を裏付ける意見書を作成していただき、これに沿って告訴状を作成し、代理人として、告訴の手続きを取りました。  いきなり、告訴状を持参せず、事前に、千葉地検特別刑事部に相談したところ、所轄の警察に告訴するよう要請されましたので、千葉県警察本部と所轄の警察署に告訴状、カルテ、医学書、意見書等の記録一式の写しを送付し、電話で相談し、日程調整の上、ご遺族と共に警察に出向いたところ、千葉県警では、丁重に応対され、即日、告訴を受理するとの回答を頂き、数日後に受理されました。

 

5 前後して、民事担当の弁護士が民事訴訟を提起し、シビアな攻防が続きましたが、最終的には、患者側の主張が認められ、全面勝訴しました。他方、警察・検察は、病院を捜索・差押えし、専門医を聴取するなどの徹底した捜査を行い、起訴を目指したものの、最終的には、(私の理解では、救命可能性の十分な証明が困難との理由で)不起訴となりました。

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